サクラが男だったら、迷わず押し倒しているレベルである

だとしたらまずいなぁ……うっかりお妃に選ばれてしまったらかなわないぞ。国を評判を落とさない程度にドジを踏んでもらわなければ……と無茶な事を考え始めるサクラ。しかし実際、うるんだ目で上目遣いにこちらを睨んで来るユキは悩殺ものだった。サクラが男だったら、迷わず押し倒しているレベルである。
「僕、絶対に嫌ですからね! こんな、バレたら打ち首になるような真似は!
 どんだけアリシアをなめてんだって話になりますよ、問答無用でお仕置きですよ!」
「お仕置きだべ〜」
「リアルで爆破されたらたまりません! あれはギャグだから済んでるんです!」
「まあまあ、滞在するのもお妃さまが決定するまでの話らしいし……案外、すぐ決まるかもしれないべ?」
「そんな無責任な! ヒィさまのばか、あんぽんたん!」
 そんな罵りも、涙目かつ美少女ルックでは迫力がない。いつもの格好ですら気迫の欠片もないのに、女装した姿で怒鳴られても可愛らしさしか感じない。ティファニー シルバー
 座り込んだままだとドレスが汚れるとサクラが進言すると、大慌てでユキは立ち上がった。その振る舞いに、哀しき貧乏性の性を感じる。しばし憐みの目でユキを見つめるサクラ。
 山吹色のチョッキは、彼らの国における従者の制服。つまりは、ユキの服。
 ひきつった表情を浮かべるユキの前で、サクラは「へへへっ」と一回転する。今しがた袖を通したばかりの服を、得意げに見せびらかした。
「似合うべ? 似合うべ? オラ、素敵な従者じゃねべか?」
「ええ、腹が立つほど似合ってますよ……」
「ユキが王女役だから、オラは従者役! 完璧!」
 もともと中性的な顔立ち、かつスレンダーな体つきだったので、女性的な少年に見えなくもない。一部の女性の心をくすぐりそうな、小動物のような愛らしさも持ち合わせていた。誇らしげなサクラの前で、ユキが悔しそうにぐっと拳を握りしめる。
「ああ、早く来い成長期っ……!」
「成長期なんて来なくていいよ。むきむきのユキなんて見たくもないからな」
「いえ、僕の成長期ではなくヒィさまの。胸が出てくれば男装なん「ハッ飛ばすぞ馬鹿野郎!」
 さすがに(見た目は)少女のユキに手を出すのは憚られるので、怒鳴るだけにとどめるサクラ。意外とフェニミストな王女様だった。
 それはそれとして、とサクラがユキの肩を抱き、再び鏡と向かい合う。映る二人の姿は完璧に少女と少年であり、一見して性別が逆だなんて思われないだろう。文句を垂れていたユキも鏡を見て、口を閉じざるを得なかった。それほどにもユキは王女、サクラは従者然としていた。ティファニーイヤリング
 が、口を閉じたままだとこのまま流されることは必須なので黙っているわけにはいかない。
「ユキ、あんまり駄々をこねると、おめぇがウメに惚れてるってことバラすぞ」
「え」
 と、ユキはそう言ったきり押し黙る。正確には、顔を赤くするのに忙しくて、声が出せない。
 やがて、肩を震わせながら「なななな……」と紅潮した顔で叫んだ。
「なんで知ってるんですかぁあ!」
「オラはおめぇがハイハイがやっとできたって頃から見てるんだべ。バレバレだよ」
「知ってるんなら黙ってて下さいよ! そんなことを口に出すなんて、下世話な人間のすることです!」
「だからこの手は使いたくなかったんだべ……。それに、黙ってやると言っているんだよ。女装してくれたら」
「結局脅迫じゃないですかあぁあああああ! ヒィさまのばかぁあああああああああ!」
 顔を覆ってよよよ、と泣き崩れるユキ。哀れを誘う姿。
 そんな彼にサクラはそっと近づき、微笑みながらその肩にそっと手を当てて優しく囁いた。
「ユキ、オラはユキを信用してるからこんなこと言うんだ。ティファニーブレスレット